2026年1月05日

2025年12月8日〜13日にかけて、アラブ首長国連邦ドバイで開催された
・Healthcare 2.0 Conference(12/8〜10)
・ACEM25:Asian Conference on Emergency Medicine(12/10〜13)
の2つの国際学会に参加してきました。
おそらく会場で医学生は私ひとり。
一方で、Elish Visionの代表として、「医療の未来を担う経営者」という立場でも参加し、世界の最前線を俯瞰する貴重な時間になりました。
会場の雰囲気は、このようなイメージです。いくつもの部屋に分かれ、非常に多くの医療人が集結しました。



Healthcare 2.0 Conference:医療×テクノロジー×ビジネスの交差点
Healthcare 2.0 Conference は、ヘルスケアとテクノロジー、そしてビジネスが交差する国際会議です。
テーマは “Reimagining Healthcare For A Changing World”
取り上げられていた主なトピックは、
・デジタルヘルス・遠隔医療
・AIを用いた診断支援とトリアージ
・患者体験(Patient Experience)を軸にした病院経営
・保険・支払いモデルのアップデート
など、「医学」と「経営」と「テクノロジー」をどう組み合わせて次のヘルスケアを設計するか、という視点が一貫していました。
医学生の立場だけで見れば少し場違いにも思えますが、
臨床とマネジメントの両方を理解する人材が、これからの医療には必須になる。
その確信を、世界のプレイヤーたちから直接確認できた場でもあります



ACEM25:アジアの救急医療が一堂に会する場
続いて参加した ACEM25(Asian Conference on Emergency Medicine) は、アジア各国の救急医・EMS、研究者が集う救急医学の国際学会です。
テーマは、
・プレホスピタル(現場〜搬送)の質向上
・外傷・中毒・心停止など、救急の主要テーマの最新エビデンス
・災害医療・メジャーインシデント対応
・AIやシミュレーションを用いた教育・訓練
など、救急医療を「一つのシステム」としてどうデザインし直すか、という視点が随所に盛り込まれていました。
展示ブースでは、最新の医療機器やAIプロダクトのワークショップも多数開催されており、
全自動の機械式胸骨圧迫装置や、AIを組み込んだ超音波解析システムなどを実際に操作しながら学ぶことができました。



例えば、ACEMで学んだことのひとつ:心停止と胸骨圧迫
ACEMでの多くのセッションの中から、誰にとっても身近なトピックである
心停止/胸骨圧迫(いわゆる心臓マッサージ) に関する講演で学んだ内容を、ひとつだけご紹介します。
最新の蘇生ガイドラインで強調されているのは、
「新しい技術を増やすこと」よりも、基本の重要性を再確認し、それを支えるシステムをどう機能させるかという点だ、というメッセージでした。
1. 「質の高いBLS」と「早期除細動」が依然として最重要
数百ページに及ぶガイドラインの中でも、
成人心停止の転帰を最も改善するのは
⭐︎質の高い一次救命処置(BLS)
⭐︎早期除細動
である、という点は変わっていないことが強調されていました。
どれだけ新しいアルゴリズムや機器が登場しても、
胸骨圧迫の質や除細動のタイミングを疎かにすれば、救命率は上がらない。
当たり前だからこそ、現場では一番忘れられやすいポイントです。
2. 技術ではなく「チームリーダーシップ」と「ケアシステム」が成果を左右する
講演者が特に強調していたのは、蘇生成績を左右する最大の要因が
チームリーダーシップと効果的に機能するケアシステム
である、という点でした。
具体的には、
・プレホスピタルサービスの整備
・初期対応者の教育
・AEDが数分以内に患者のもとに届くインフラ
が整っていなければ、その後の高度な医療介入は学問的価値にとどまりうる、という指摘は非常に示唆的でした。
3. 機械式胸骨圧迫装置は「routine使用」すべきではない
学会の展示でも目を引いた、Lucas などの機械式胸骨圧迫装置については、
「使用してはいけない」のではなく、
「最初から routine に使うべきではない」
というスタンスが示されていました。
特に蘇生初期は、
機器を装着することに時間を費やすよりも、
手技による質の高い胸骨圧迫&早期除細動
に集中すべきである、という考え方を学びました。
技術そのものよりも、「いつ・どの場面で使うか」という運用設計が重要だという視点です。
4. 妊娠中の心停止では「胸骨圧迫の質」が最優先
妊婦の心停止に関しては、従来推奨されてきた左側傾斜位よりも、
仰臥位のまま、手動による子宮左方偏移(manual left uterine displacement)を行う
方が、胸骨圧迫の質が保たれるという点が、重要な変更として示されていました。
また、
・薬剤は上肢静脈路から投与すること
・心停止後4分以内の蘇生目的分娩を検討すること
など、実践的なポイントも整理されていました。
5. 難治性VFでは、新しい技術を「適切に使う」姿勢が重要
難治性心室細動に対する二連続除細動(Double Sequential Defibrillation)は、決して新しい概念ではありませんが、
今後ガイドラインに本格的に組み込まれる可能性が高い手法
として紹介されていました。
高レベルのエビデンスはまだ十分とは言えないものの、
難治例では臨床判断として使用を躊躇すべきではない、という実践的なメッセージが印象に残りました。
6. 「エビデンスがない=効果がない」ではない
講演の締めくくりでは、
エビデンスの欠如は、臨床的有効性の欠如を意味しない
という言葉が繰り返し強調されていました。
多くの介入は現在進行形で研究が進んでおり、今後数年でガイドラインが変わる可能性があります。
だからこそ今は、
基本を徹底しながら
新しい知見を批判的に取り入れる
という姿勢が重要である、というメッセージは、日本の現場にもそのまま持ち帰れると感じました。
また、今回、個人的に大きな収穫だったのが、
台湾の救急医療を牽引する先生の一人と、腰を据えて話す機会をいただけたこと です。
台湾は、救急体制・教育・データ活用の面でアジアでも非常に先進的な国のひとつです。
救急医療を「国家インフラ」としてどう位置づけているのか
若手医のキャリア設計をどう支えているのか
現場の疲弊を防ぎつつ、質を保つ仕組みは何か
といった問いに対する具体的な答えを伺いながら、日本の地域救急の未来を考える上でのヒントをたくさん得ることができました。
🗝️Elish Visionとして、この経験をどう活かすか
今回のドバイでの学会参加は、
「医学生としての学び」と「医療の未来を設計するプレイヤーとしての視座」の両方を磨く時間でした。
世界の現場で、何が本当に課題になっているのか
どの技術が一時的な流行で、どの変化が構造転換なのか
その知見を、日本のクリニック・病院経営や産業医、教育現場にどう翻訳するか
Elish Visionは、こうした国際的な知を単なる情報としてではなく、
「日本の現場で使える仕組み」と「持続可能な戦略」に変えて届ける会社 でありたいと思っています。
今後、学会で得た知見の中から、
日本の医療・クリニック経営・学校保健などに応用できるトピックを、少しずつブログや講演を通じて共有していきます。
引き続き、Elish Visionの活動を見守っていただければ幸いです。
Elish Vision 代表
北垣 遼
